話題の「デザイン思考」とは何なのか。

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昨年だろうか、デザイン思考という言葉を見かける機会が急に増えた。そのデザイン思考とは一体何なのか、数回に分けて書きたいと思う。

デザイン思考とは
デザイン思考に注目が集まったのは、アメリカのデザインファームIDEOのデイビッドケリーによるところが大きいだろう。2002年「発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法」で公開された創造のプロセスがきっかけとなり、今のデザイン思考という言葉に注目が集まるようになったと思う。
デザイン思考の定義はWikipediaにはこうある。

デザイン思考(でざいんしこう、英: Design thinking)とは、デザイナーがデザインを行う過程で用いる特有の認知的活動を指す言葉である

いまいちよく理解できない解説だが、そもそも流行り言葉というものは定義が曖昧だと思えるし、デザインという言葉自体も定義が曖昧なまま使われているからそういう物かもしれない。またデザイン思考には論理の他に属人的な感性が含まれるため定義が難しいという点もあるかもしれない。
むしろ、重要なのは定義ではなくデザイン思考を必要としている人の問題解決である。

近年、デザイン思考という言葉で語られている内容の多くは、従来「発想法」「思考法」「アイデアの出し方」「企画の方法」などという名で語られていたことだ。そのため、ここではデザイン思考の定義を「創造のための思考法」と設定し、進めようと思う。

デザイン思考は魔法ではない
デザイン思考という言葉を多くのビジネスメディアで見かけるようになった。デザイン思考に注目すべき理由として語られるのは、多くの場合は以下のような内容である。
・成長が行き詰まりイノベーションを起こす方法を探している。
・デジタル化の進歩により分析が可能になった一方で類似したサービスや商品が増えた。

しかし、このような理由でデザイン思考を身につけるには疑問がある。
と言うのも、デザイン思考とはデザインにおける創造のプロセスを非デザイナーに向けて解説するものであるが、この思考の中で重要とされる部分はデザイナー自身多くの数の経験をこなし目で盗み身につける、言わば手に職のような物で感性だ。左脳ではなく右脳的な能力とも言える。この属人的な能力にイノベーションの可能性を感じているのだろうが、残念ながらそのような能力ではない。
IDEOのプロセスは顧客の自社サービスへの理解度を高めるための極めてビジネス的なものであるし、現場としての感性は左脳的能力に劣る人の逃避先として存在してきたように思う(デザインを生業としている私にとっては残念ではあるが)。つまりポジショントークだ。アメリカにはデザイナー出身の起業家が新しいサービスを産み出しているというが、それは単に優れている人物がデザインの道に進んでいることから目をそらしている。デザイン思考でイノベーションへの企画書が出来るとしたら、そのような人物を雇う方が早い。

では、なぜアイデアを出すことを苦手としている人がいるのか。デザイン思考として語られる内容の中心となる部分は、課題設定、拡散思考、収束思考、試作、評価である。その拡散思考と収束思考というのは脳の働きが異なる。詳細は後述するが、拡散思考つまりアイデアを出す行為と収束思考つまりまとめる行為は同時に行うと効率が落ちるのだ。そのため時間を分けて行うのが常識である。しかし一般的な仕事に拡散思考が必要とされることがない。そのため多くの人は頭を切り換える必要があることと、時間を分ける必要があることを知らないのである。それを知るだけでアイデアは出せるようになる。それでもできない場合は、関連する情報が不足しているだけである。
では、なぜIDEOのような会社が優れたアイデアを出せるかと言えば、1つはアイデアの量である。2つのアイデアから1つを選ぶより200のアイデアから1つを選ぶ方が適したアイデアを選ぶ事ができる。つまり拡散思考をする人数を増やせばいいのである。外注する場合は予算額を増やすこととなる。もう1つは、関連する情報の量である。これは調査や教育の時間を確保すること、外注の場合は時間と予算額を増やすこととなる。
つまり、優れたアイデアを出すために重要なのは人数、時間、予算だ。デザイン思考を学んだからと言って優れたアイデアが出せる訳ではない。ただ前述のデザイナーの創造のプロセスのように、多くの数をこなすことで慣れることはできる。それを抑えた上で、デザイン思考の中心となる部分を解説する。

デザイン思考のプロセス
デザイン思考のプロセスは、数多くのパターンが発表されている。とは言え、そのパターンは似通っている物が多い。その多くは以下の4つとなる。
1.課題設定・定義
2.創造
3.試作
4.実証・評価

1.課題設定・定義
ここで行うべきは、まず情報収集、観察となる。最近頻出するインサイトを得るもここである。その後、課題を設定・定義する。

2.創造
ここでアイデアを出す。アイデアを出すには、前述の拡散思考と収束思考を分けて行う。拡散思考とは、ブレインストーミングに代表されるような、大量のアイデアを出す行為である。ここで大切なのは、アイデアを出す間は批判や評価をしない、自由に、とにかく大量のアイデアを出すことだ。ただし拡散思考で出たアイデアのままだとアウトプットするのが難しい。そのため次に収束思考へと進む。収束思考は、KJ法に代表される、アイデアをまとめる行為である。拡散思考で出たアイデアをまとめることで、意味づけや補強ができ、より実践的なアイデアとなる。

3.試作
今回のアウトプットに何か制作物が含まれる場合、ここでプロトタイプを制作する。デザイン的な思考法の特徴の一つとして、作りながら考える、ということがある。どんな制作物でも、作ってみないと分からないことがあるからだ。そのため、プロトタイプを作ることも思考の一つとなる。

4.実証・評価
最後に、アウトプットを評価する。第三者を交えてテストを行う、改めて考えなおす、などを行い、不十分であれば、もう一度”1.課題設定・定義”に戻る。この1から4のプロセスは何度も繰り返し行うことでより良いアウトプットになる。そのため、一つ一つのプロセスに時間をかけ過ぎず、何度も回すことを優先する。

大まかにデザイン思考はこの4つのプロセスとなる。これをより細分化した物もあるが、実務での利用を考えるとステップ数は少なくしておいた方が使いやすく思う。最後に、デザイン思考において重要なのは、厳密に考え過ぎないことだ。重要な見落としがあったとしても、この4つのプロセスを複数回繰り返せば見つけることができる。厳密に考えすぎて思考が偏らないためにも、柔軟な姿勢で挑むと良い。

なお、アイデアの出し方については、拙著「スライドデザインの心理学」にも記載してある。

プロセスの詳細については次回以降に。